×

針・糸・布・ハサミ・針山を 被災地へ

針・糸・布・ハサミ・針山を 被災地へ

相馬1.jpg
風の便り 2011・5月6日 発行 風工房・斎藤 洋
 先日一週間ほど、いわき・相馬・仙台・釜石・遠野などを巡って来ました。
(一緒に行った、息子の弦は、いわきに留まり、津波被害のひどい沿岸地で〈泥だし〉などの片づけを続けました。)
 改めて津波の凄まじさを目のあたりにし、また原発の及ぼす理不尽な状況に、(私自身しっかりと向き合えてこれなかったふがいなさも含めて)怒りを感じ、京都に戻った今も、私は精神的にかなりのダメージを受けています。
 被災者の方々の受けた衝撃はそれこそ計りしれません。
 帰路、最終の新幹線で京都に着いたのですが、車中うつらうつらとするなかで、私が思い巡らしていたのは、年間3万人を超えるこの国で自死してゆく人たちのことでした。それぞれが孤立してゆく中でいくつもの精神への被爆、被災を重ねて受けているのではというイメージが溢れました。その人たちには、今回のような支援はついに届いていかないうちに10年で30万人を超える被災者がいる国を想いました。
旅の目的は二つ。
 一つは被災地で私のようにモノづくりを生業としている人達の作品発表の場を、京都のギャラリーや寺、美大などが提供できないかということ。二つ目は、避難所や、これから移り住む仮設住宅や当地の学校などで、亡くなった方たちに向けて〈メモリアル・キルト〉を作ることができないだろうか。その二つの事の実現のため、まず行って、人と会い話してみようと動いてきました。出会った人たちは皆、温かく迎え入れてくださり、そして的確なアドバイスをしてくれました。
 作品発表の場作りはこれからギャラリーなどの人たちと話し合い、みんなでしっかりした〈手すり〉を作るような意識でぼちぼちと始めてみようと思います。この件に関してはまた詳しくお知らせいたします。
 岩手の遠野総合福祉センター内にあるボランティアの拠点・遠野まごころネット http://www25.atpages.jp/tonomagokoro/ を訪ねた際、今、避難所ではタオルを素材にした〈がんばるぞう〉作りが人気で、みな針と糸を持って夢中になって縫っているという話を聞きました。
やはり縫うという作業は大きな力を持っています。そこで持ち歩いていたAIDSメモリアル・キルトを見てもらいました。布を囲んで亡くなられた大切な人のことを思い、おしゃべりし、その人にふさわしいデザインを考え、みなで縫うその時間と場所がどんなに大切な意味を持っているか、スタッフにお伝えしたところ、すぐ分かってくださり、やりましょう、というより、「やってください」と頼まれました。
 私のイメージはこうです。遠く離れた私達ができることは限られている。当地にも布好き、縫い好きの人たちは必ずいる。まずそういう人たちと繋がり、6月の初旬ぐらいに福祉センターに集まってもらい、私がお預かりしているAIDSメモリアル・キルトを囲んでワークショップをする。そしてグループに分かれ各避難所や仮設などに入る。作り始めたらそれぞれのやり方が見つかっていくと思う。私達の役割はそこまで。
出来た作品をその先どのようにするかは作った方々で決めていく。
 私はという言葉が苦手です。この文字の糸へんの横の半のようなつくりは、牛を表す象形文字から来ています。
 絆とは、牛や馬をつなぎとめるロープのことで、自由を奪いわがものにするというのが本来の意味です。みんなの心を一つに頑張ろうという言葉はもろいと私は思っています。そのために絆のような<たが>がセットされやすいのだと思います。それも国家的なるものによって。
 わたしは今この厳しい状況の中で言葉を見つけるとしたら、絆ではなく、ほどけ、とけあうというようなイメージだと感じています。
 これから被災地では、学校の体育館などの避難所生活から仮設住宅などに移行していきます。阪神淡路大震災のときも、仮設に移ったお年寄りの方たちの孤独死や自殺が相次ぎました。「あの時死んでいたほうが良かった」という言葉を遺して。キルトは基本的にたくさんの人たちの手で作っていくものです。たとえば仮設の一部屋に集まり、針と糸を持ち今は浄土のおられる人や動物たちのことを語り合い、
失われた町の風景を取り戻しながらぼちぼちと縫い上げてゆく、ほどけ、とけあうような時間、そしてそのような場所を持つことがキルトを作ることの本来の意味です。作られたものを展示し発表することなどは二次的なことだと思っています。ただ、もしこのキルトが何百年先までも残されていくならば、後の世の人たちへの大切なメッセージに、結果としてなるとは思います。
 そこで、みなさんにお願いがあります。キルトを作っていくための道具や素材を集め送ってほしいのです。
 お子さんなどが学校で使った洋裁セットなどは最適。もちろんセットでなく単品でもありがたいです。
 針(穴の大きめなもの)、針山、縫い糸(どんな色でもOK)、ハサミ(糸切りバサミ・裁ちバサミ)、
キルトのベースとなる布(縫いやすい木綿布、出来るだけ無地、色があってもよいです。一枚のサイズが1m×2m・長いままでも。もちろん新品でなくても)
みなさんの友達にも知らせてください。近くの小中高等学校などに頼んで、学校単位でまとめてもらうのもよいですね。
 送り先は風工房・斎藤、 第一陣として5月25日までに届くようにお願いいたします。(その後もずっと受け付けます)
 ボランティアスタッフを募集します。
たとえばチラシづくり、ホームページ作り、整理・発送係、送ってくださった方々への返事担当、会計係、また現地に行ってキルト作りのアドバイスなどができる人など・・・手伝ってもよいと思われる方は連絡をください。(直接風工房に来なくても、PCなどでできることも多いと思います)また現地の辺りで、このような作業を理解してくれる、布好きなお知り合いがおられましたら紹介してください。
この旅で出会った人たち
野口孝寛さん・いわき市 百姓・陶芸家 お父さんとともに黒米などを作りながら、薪窯で器などを制作。保育園児などに土をこねさせ,陶芸
の楽しさを伝えている。同じ保育園で私は何年も野染に呼ばれていて、彼と知り合う。焼き物作品よりアフリカ、アジアなどの古い布のほうが好きみたいで素晴らしいコレクションを持っている。今回の地震で窯が壊れるも、余震が続いているので直せていない。窯が復活した暁には、新作展を風工房でする約束。福島原発には何十年と異議を唱えている。酒量が増えて心配。
吉田重信さん・いわき市 現代美術作家 生業は自動車修理工場経営。いわきアート集団代表5月10日~22日京都・ギャラリー射手座にて吉田さんの作品展 〈臨在の海〉 開催。この会で射手座は閉廊となる。野口さんのアトリエで福島の地酒と肴、宮澤賢治の話で酔い・・ 「いわきの海岸を見てくれ」 翌朝野口さんと浜へ。
加藤哲夫さん・仙台市。プロフィールは一言では言えない。彼のブログを是非ご覧いただきたい。柔らかく、でもラジカル。示唆に富む。
20年ぶりの再会は病室。体はかなりしんどいはず、でも話せた!ありがたかった。http://blog.canpan.info/katatsumuri/
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-205.htm 2011-04-26「愛する飯舘村を還せ!!村民決起集会」
こちらも加藤さんからの情報、必見です。
関口玲子さん・仙台市 Be-I(ビーアイ)主宰。子どもが持つ表現能力を豊かに引き出すプロフェッショナル。現代美術作家。
全国にネットワークがあり、お邪魔した日も各地から来る支援者のための炊き出しをしていた。目に見える支援を続けている。スタッフの清水千佳さんとも20年ぶりにお会いする。彼女や加藤哲夫さんたちとAIDSメモリアル キルトの大規模なディスプレーに参加するため総勢60人程でワシントンに行ったのは1992年のことだった。
仙台でNPO支援www12.ocn.ne.jp/~bei/
森美枝子さん・仙台市 ギャラリー蒼 主宰 京都在住のフェルト作家・ジョリー・ジョンソンさんの紹介でお邪魔しました。
被災者支援のためのオークションが二週連続で行われている最中でした。主に東京の作家が出品していました。私も、伊勢木綿のマフラー(チョイ巻き)を少しだけ出品させてもらいました。岩手の情報も教えてくださった。
種倉紀昭さん・盛岡市 岩手大学教授 エコール・ド・エヌという表現者集団の事務局をされている。自らも絵を描かれる。
関口玲子さんの紹介で初めてお会いする。あらかじめこちらの旅の目的を電話で話していたのだけれど、私と会うまでのわずかな時間に、種倉さんは三陸沿岸の絵描きの方々の今の状況などを調べ、伝えてくださった。この人だったらメモリアル・キルトを見てもらえると思った。そして体ごと分かってくださった。こういう処からしか
始まらないものがある。
木村敦子さん・盛岡市 <まちの編集室>http://www.tekuri.netデスク・アートディレクター 「てくり」という岩手のクラフト作家などを丁寧に紹介している本などを出版されている。森美枝子さんの紹介で初めてお会いする。待ち合わせたのは彼女がプロデュースしたクラフトの店・ひめくり。〈てくり〉に載っている岩手の作家の作品が置かれている。
 そのほか、花巻で一宿一飯をお世話になった、40年来の友、遠野で農業をしている若き御夫婦と赤ちゃん、遠野まごころネットのスタッフの方々、釜石で出会った震災の3日後に生まれた赤ちゃん、お見舞いに行ったのにおいしい焼海苔をたくさんお土産にくれた相馬のNさん。みんなの力を頂きました。ありがとうございました。
 引き続き 被災地NGO恊働センター http://www.pure.ne.jp/~ngo/ への支援も !!
まけないぞう.jpg

コメントを送信